ごはんの時間はうれしい時間

ご飯の時間になると怒りだすトイプードルの話の続編です。

レッスンで自宅に伺ったとき、その場面を見せてもらう必要がありましたので、飼い主さんにいつものように再現してもらうことにしました。飼い主さんは心配しましたが、見てみないことには改善の方法はわかりません。噛まれたら噛まれたときのこと、と私も覚悟を決めていました。

しょうたろうは、飼い主さんが言うほど怖い犬には思えませんでした。私に対しても警戒や不快感を示すことなく、飼い主さんが庭に来てくれたのでうれしそうでした。散歩での様子を聞くと、ほかの犬に吠えられると逃げてしまうのだそうです。

飼い主さんは、フードの入った器を置き、「ヨシ」と合図。しょうたろうは微妙な緊張感の中で食べ始めました。が、しょうたろうの様子はまったく変わりませんでした。念のため、器に手が近づくことに慣らすために、フードよりさらに良いもの、チーズを器に入れるようにお願いしたのですが、いつもこのトレーニングをするときの緊張感がなぜか感じられません。不思議に思ったので、思い切って、「いい子だね~」と言葉でほめながら器を下げてみるようお願いしてみました。

飼い主さんは多少身がまえましたが、しょうたろうの様子が穏やかだったこともあり、何とすんなり下げられてしまったのです。

しょうたろうは、ふつうの顔をして立っていました。さすがに「あれえ~?」と不思議がる飼い主さん。

私「飼い主さん、嘘つきました?(笑)」

飼い主さん「いや、こんなはずじゃ……(何でいつものようにやらないんだろう?)」

その様子を見て、私はこんな仮定をしてみました。しょうたろうにとっては、散歩の時間が来る、飼い主さんと散歩に出る、家に戻るとフードの入った器を飼い主さんが持って来て、なぜか飼い主さんが怒り出し、しょうたろうも怖いので応戦、そこでバトルが始まる……というパターンができてしまったのではないか、と。

もちろん最初は、しょうたろうが取られたくなくて少々(?)うなったことが原因で、それを正しくしつけようと叱った飼い主さんとのパドルが始まったというようなことだったのだろうと思います。しかししょうたろうの学習はそれと結びつかず、なぜか散歩の後、器が地面に置かれるとお父さんが怒り出してバトルになる、となってしまったのではないかと思ったのです。

私が見せてもらった場面は、いつもの散歩の時間でもないし、散歩から帰った後でもありません。そんなタイミングでフードを器に入れて置かれたときは、しょうたろうは、自分の身に危険が迫る(お父さんが怒る)とは連想せず、お父さんから身を守るために防衛的な攻撃行動に出なかったのではないでしょうか。

そこで私は、「散歩に出る→家に戻る→ごはんの時間→バトル」という一連の流れを変えてもらうようお願いしました。ごはんの時間は、せっかくおいしいものを食べるうれしい時間なわけですから、やさしく声をかけ、楽しい雰囲気を作るよう心がけてもらいました。そしてできればしょうたろうがを自由に行動できるようお願いしました。それほど広いスペースでなくても、「囲いの中で逃げられるスペースが確保できる自由さ」では、動物にとって雲泥の差があるのです。

飼い主さんはさっそく柵を作ってくださり、しょうたろうは解放されました。するとそれからは、緊張した場面になることもなく、あっさりと器を下げさせてくれるようになったということです。

[おかげさまで、その後しようたろうとは何事もなく、毎日問題なく過ごしております。あのころは思いつめて、もうやっていけないかもと覚悟を決めたりして、何だったんだろうと思います。中西さんに相談して来ていただいたおかげで、すっかりそんな悩みは過去のものになりました。」(※飼い主さんのメールより引用)

しょうたろうの不機嫌の原因になってしまったかもしれない耳の炎症もすっかり良くなり、治療も卒業することができたそうです。本当に良かったですね。飼い主さん、しょうたろう、これからも仲良く幸せに!

 

ご飯の時に攻撃的になる犬

5歳を過ぎたころから、散歩の後でごはんを食べる際に、なかなか食べ始めないことが増えてしまったというトイプードルの『しょうたろう』。

最近ではうなって食べ散らかし、最後には飼い主さんに噛みつくようになってしまったそうです。ごはんを地面に置いておいて食べ終わったとしても、器を下げようとすると攻撃的になる、ということで相談がありました。

私は出張トレーニングの仕事をしていますが、この問題で困っている犬が多いと感じます。

ふだんの生活ではほとんど問題ないそうなのですが、ごはんのときにとても攻撃的になるので、飼い主さん(お父さん)はしょうたろうを飼い続けることに対して不安を感じ始めていました。外飼いなので接する時間は短く、仕事をしているので日中の時間がそれほど取れないことなどもあり、そういった状態でも改善できるのか、悩んでいたとのこと。

犬の問題行動の多くは、「6ヵ月齢を過ぎたあたりから気になり出し、だんだん顕著になっていき、少し和らいだかと思ったら2歳くらいにピークを迎え、その後はだんだん落ち着いてくる」という大まかな流れがあるように思います。

それが5歳から急にとなると、何か特別なきっかけがあったかもしれません。飼い主さんに、またはしょうたろう自身、彼を取り巻く環境、飼い主さんの生活などに何か変わったことが起きなかったか聞いてみたところ、ちょうどそのころにしょうたろうが中耳炎にかかり、通院するようになったことがわかりました。

犬が痛みや不快感を感じているときに、近づいたりふれようとすると、攻撃的な態度を取る場合があります。野犬などを保護する際には、もし犬がケガをしていたら素手でさわったりしないようにと言われます。痛みがある場合、犬は激しく噛むことが多いからです。

そう言えば、私が大学生のときに実家で飼っていた犬が、かなり良くない状態だと連絡を受け、帰宅したときのことです。犬小屋の下にもぐり込んでいた愛犬に声をかけると、うれしそうにしっぽを振ってくれたのですが、なでようと手を伸ばしたところ、初めて鼻にしわを寄せてうなられました。そのときはとてもショックでしたが、今思えば、相当な痛みや不快感があったのだろうと思います。

しょうたろうのケースも、もしかしたら耳の不快感でイライラしていたのかもしれません。もともと器に関しては所有欲が強く出やすい犬種でもあるので、そんなときに器に近づかれたためにうなってしまったのかもしれません。

飼い主さんとしては、愛犬がうなるという行動はとても良くないことで、叱るべきこと。ここで引いてしまっては犬に負けてしまう、と思った部分もあったようで、とにかく叱って何としてでも器を取らせるよう、しょうたろうと闘い始めてしまったのです。

相談申し込みのメールをくれた前の日の夕方、散歩から戻っていつものようにごはんを与え、器を下げようとするとうなり、あまりにも激しかったのでついに器を下げることができなかった、ということでした。しかし、次の日の朝は器を下げてもとくに気にする様子はなかったそうです。

このケース、最初は私も、器を守るという所有からくる攻撃性だと思っていました。ところが、お嬢さんが器を下げようとしても、しょうたろうは怒らないのだそうです。その話を聞いて納得しました。

このケースは「愛犬が怒って器を下げさせない」のではなく、「愛犬が怒ってしまい、器を下げられない人がいる」という問題なのです。この2つは、似て非なるもの。そうなると、原因は所有ではなくなります。所有が問題なら、誰が下げても怒らなければ成り立ちません。怒られてしまう人の行動に原因があるのです。

そこでさらに詳しく話を聞くと、しょうたろうが怒るのは、散歩から戻って庭につなぎ、器にフードを入れて地面に置いたとき。緊張感が走り、しょうたろうが身がまえてうなり始める、という場面に限るようで、少し時間が経てば器は下げられるとのこと。

しょうたろうのごはんは、毎日朝夕、散歩から帰ってから、つながれて犬小屋の前で与えられていました。