抱っこできない…

トイプードルの『トノ』は、気に入らないことをされると飼い主さん一家の誰にでも噛みつくそうです。

飼い主さんが私に相談しようと思ったきっかけは、トノを連れてペットショップに出かけたときのこと。そろそろ帰ろうと飼い主さんがトノを抱き上げたところ、まだ帰りたくなかったのか、トノは突然うなって怒りだし、誰も手がつけられない状態になってしまったそうです。

ほかのお客さんたちがびっくりしてしまうほどの猛犬ぶりを発揮してしまったので、恥ずかしいのと、営業妨害になっては申し訳ないのとで、飼い主さんは慌ててダウンジャケットでトノを包み込み、それごと抱きかかえてお店を出たそうです。

お宅に伺ってみると、予想通りトノはものすごい勢いで私に吠えかかってきました。しかしよく観察すると、私が前に出ると下がり、下がると前に出てきますが、手の届くところまでは来ようとしません。その様子から、これは怖くて吠えている「パニック吠え」なので、怖がらせる動きや、追いつめたりしなければ噛まれないだろうと判断し、そのまま部屋の中へ入りました。

話をしようと腰掛けたのですが、トノは吠え続け、うるさくて話ができません。飼い主さんに、ほかの部屋へ連れていくようお願いしたのですが、噛むので抱いて連れていくことはできないとのこと。

ダウンジャケットで、とお願いするのもなんでしたので、どうしたものかと思っていたら、家族総出で「トノ、おいで!おいで!」と、隣の部屋に来るようにがんばって呼んでくれました。いつまでかかるだろう……と不安に思っていたら、トノはふと気が変わったのか、まるで「今日はこれくらいにしといてやるわ」と捨てゼリフを残し(たような感じで)、すっと振り返ってズタズタと隣の部屋に行ってくれました。彼の名誉のために、逃げた、とは言わないでおきましょう(笑)。

話を詳しく伺うと、トノは自分がされたくないすべてのことにおいて噛みつくのに、食器だけはさわっても大丈夫なのだそうです。

それだけは、子犬のころから一生懸命トイプードルのしつけをしたからだろう、ということです。器に近づくとうなる、吠える、噛むという犬がいますが、それは占有性攻撃行動と呼ばれるもの。所有欲が強かったり、子犬のころにひとつの器でみんなで一緒にごはんを食べたことがなかったりする場合に、そうなることがあるようです。

どちらかと言うと、器にさわっても噛まないことより、ペットショップから帰るときや、隣の部屋に連れて行くときに抱けるほうがありがたいと思うのですが。

とにかくこの場合、決定権を持っているのはトノ。まずは愛犬との正しい関係を作るためのベースプログラムを実施していただくことにしたのですが、飼い主さんの事情で、ベースプログラムの中で守れないルールがいくつもあるということで中断しました。

じつは、飼い主さん自身が心療内科に通っていらっしやったので、心に余裕を持って大らかな気持ちでしつけに取り組むことが難しいことがわかったのです。

まずは飼い主さんの心身の健康が優先ですので、中止に関しては私も了解しました。器の問題はトレーニングの甲斐あって克服できたのですから、きっとほかも大丈夫なはず。

飼い主さんが回復されたら、また一緒にがんばりたいと思います!